【書評】『日露戦争の世紀ーー連鎖視点から見る日本と世界』

本日、法政思想連鎖史学者の山室信一氏の『日露戦争の世紀ーー連鎖視点から見る日本と世界』(岩波新書、2005年)について紹介します。

 

この本のキーワードは「連鎖」です。著者は本書で日露戦争に至る 50 年と日露戦争後の 50 年という100 年、そして日露戦争に始まり「戦争と革命の世紀」と呼ばれた 20 世紀の 100 年を、「連鎖視点」で捉えました。

 

 

日露戦争とは、1904年2月8日の日本の連合艦隊による旅順港外のロシア艦隊攻撃に始まり、1905年9月5日、アメリカのポーツマスでの講話条約締結まで、主に中国東北地域(旧「満洲」)や日本海を舞台に戦われた日本とロシアの戦争です。

 

私がこの本に関心を持っているのは、著書の中身もさることながら、本の書き方および著者の問題意識です。

 

山室氏は、著書のタイトルについてに下記のように述べています。

 

私は本書のタイトルを「日露戦争の世紀」としましたが、その「世紀」には二重の意味があります。

ひとつには、日露戦争を中間点として、それをまたぐ前後50年の時間の幅で、日露戦争がなぜ起こったのかを探り、また日露戦後にその影響がどのように及んでいったのかを日本とアジアと欧米との係わりとして考えてみたいということです。

・・・「世紀」のふたつめの意味は、「戦争と革命の世紀」といわれた20世紀、そしてアジアとの交流と断絶の20世紀を、その出発点に日露戦争があったという視点から、見直すということです。すなわち、20世紀における「戦争と革命」、「戦争と平和」、そしてアジアと日本の「交流」と「断絶」という問題のそれぞれの絡み合いを、日露戦争という視点からみていくためにも、「日露戦争に始まる1世紀」という時間の幅で考える必要があるように思われるのです。

 

また、サブタイトルについている「連鎖視点」について説明しています。

 

あらゆる事象を、歴史的総体との繋がりの中でとらえ、逆にそれによって部分的に瑣末(さまつ)と思われる事象が構造的全体をどのように構成し規定していったのか、を考えるための方法的視座

 

山室氏によれば、この本を書いたのは、2001年に出版した800頁に及ぶ大著『思想課題としてのアジアーー基軸・連鎖・投企』(岩波書店、2001年)を書くきっかけで問題意識が芽生えたようです。

 

 

また、この本を書かれたのは、戦後60周年に当たる2005年です。その時の思いは、著者は下記のように述べています。

 

この10数年、私はアジア各地の戦跡や戦争記念館・博物館を訪ね歩いていますが、日本とアジア諸国の戦争についての認識の溝は、年々深まっているというのが実感です。知るべきことを知らないのは、やはり怠慢であり、この広がっていく歴史認識の溝を埋めないかぎり根本的な問題の解決も真の「未来志向」も望めないはずです。

 

本書では、著者は「連鎖視点」でみることを重視しており、特に関連してほしい事象について(→〇〇頁)という表示をして、高校生にも読んでもらうように工夫しています。

「連鎖視点」は、非常に重要で、「方法的視座」です。研究する際はもとより、日常生活と仕事にも活かしています。例えば、昨年7月にスタートしたブログ「東アジア地域探究のブログ」では、主に「連鎖視点」で書き進めています。

 

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